牛肉が好きなKohtan・的場氏のコラム

美味探求

ホーム > 美味探求 > コラム 「うまそうにいわれているもの」が美味しいのは本当か

「うまそうにいわれているもの」が美味しいのは本当か

Kohtan・的場

秋のイメージ写真この年末に,「さて,いよいよ…」と書けば「20世紀も終わりに近く21世紀が…」となるのが普通ですが,今回のコラムは「さていよいよ,本当においしいものを選んで食べる時代に入りました,それが新世紀の生活者の知恵になるのは明らかです。」という興味そそるお話です。

私たちは通常「うまい物は高い・良い物はそれなりに値が張る」,大阪弁で言うと「ヤッパ,値ぇは只取れへんで」という常識で暮らしています。もちろん,なかには「渋ちん風へそ曲がり大阪仕立」もいて「高いもんは食わん,値段考えただけで美味いもんもまずうなる」という人もいますが,これは味を云々する以前の金銭的判断でありますから誤解のないように願います。

もともと「味覚」は生育環境や,DNAまで巻き込んだ記憶が作る,俗に「舌」と「脳の一部」というきわめて主観的なもので知覚,判断されるのはご存じのとおりです。そこに指して下半身的(マァお下品な),失礼,生理的欲求を満たす食欲が絡みますから,本来,文字にしたり,簡単にレポートできるものではありません。簡単にいうと自分で食べて自分で判断するしかないものなのです。

秋のイメージ写真ところが,情報という「やんちゃ坊主」は昔からいるもので,誰かが「筑紫の国は関物の魚,いと美味し」と言えば京都のお公家様が食べたがったであろうように,やはり人様のお話でワァーッと寄ったり引いたりするものです。そんな「いずれかの御時」であれば特定の人々の口にしか届かなかったものが工業化社会と輸送の革新のおかげで庶民の口にも入るようになって久しい今,私たちの食べている高級食材と呼ばれるものが本当に「美味い」のか。

答えは「否」です。なぜなら,現代の食品の傾向は高級食材にありがちな,やわらかさやトロケ感ばかりが強調されだして本当の意味で,にじみ出る「味」というものからどんどんかけ離れていく感が否めないからです。

もともと日本語の「美味い」は「甘い」を語源とする言葉ですから,栄養摂取の意味からも正しく,昔は舌ざわりの良い「甘し物」が美味かったのは確かでしょうし,今もそれは変わりません。しかし,食物の持つ本来の「甘(うま)し物」は咀嚼や嚥下の時に口内から鼻腔に広がるものまで含めた,甘さであったに違いありません。

秋の日暮れ。季節が深まるにつれ、美味しい食材が増える。食感のあるものだけが良い,と言うわけではありませんが「咀嚼しないことで顎筋が弱まり,心まで壊れ始めた子供たち」まで話が及ぶのは,ごく自然だと思われます。事実,我慢強さや,栄養摂取の面,脳への影響などのお話を聞きますと,さもありなん,と思うのは私だけではないはずです。

そして私は,その傾向が「牛肉」に最も激しく現れているのではないか,という恐れを抱いています。公聴会の様子を聞いていただきご判断を仰ぐしかありません。

犯人は誰だ!!

  1. 公聴会証人『脂肪成分(サシ)』の証言 : 「そら,私が一番悪い。肉を柔らかく感じさせるのは大体が私やし,まず見栄えがよろしいわなぁ。ま,近頃は生活習慣病のこともあって敬遠しはる人も多いけど,やっぱりとろける肉は舌へのさわりもええし,あのまとわりつく感じがエエのですな。いや,そない怒らんといてください,第一あんまり旨味成分もない『サシ』のはいってんのがええ肉や,美味いて,いいはったんは,お宅ら…人間でっせ」(シーンとする公聴会場)
  2. 同『畜産業者』の証言 : 「高く売って,早く商売にしなければならなかったんですよ。勿論,誇りもありました。私の育てた牛が品評会で賞をとる,そして店で高く売れる。考えてみれば何もかも金の為だったといっていいかもしれません。しかしですよ,これもそれも但馬のOSN町の牛が最高とか,やっぱり松坂,米沢とか。まるで当時から,遺伝子競争をしていたようなものだったんですよ」(農水省役人「畜産農家の為だったんだぞ〜」という野次)
  3. 同『量販店』の証言 : 「高度成長でありましたし,一億総中流の思想というか,風潮がまさに追い風でした。おいしいものをどんどん安くということで,柔らかくて見栄えのいい肉は『脂肪成分』さんのおっしゃるようにしっかりと連携プレーで開発いたしました。しかしそれでずいぶんと国民のみなさまの栄養状態はよくなって…いやあ,バブルが破裂してよかった,実は私も中性脂肪の数値たかいんですよ」(ブーイング)
  4. 同『食肉メーカー』の証言 : 「量販店さんの共犯ということになると,私たちもそうかもしれません。もう昭和40年代なかばから柔らかい肉が市場を席巻し始めていました。通常ランプ(臀部)ステーキなどが普通だったのがコストを軽減させるという意味で開発した,卵白成分でできた糊でくっつけたハラミステーキ肉があったんですが,あるステーキハウスさんなどは飛びつかれましてねぇ,しっかり稼がせてもらいました。でも,開発の協力者は輸出国とその輸入業者だったと記憶しておりますが」(ざわめく場内)
  5. 同『輸入業者』の証言 : 「自由化の波だったんですよ。そりゃ大変でした。話せないことも沢山ありますが,いずれにしても国と団体の決めた枠の中でどれだけ利益をあげていくかということが至上命題でした。あれからだいぶ経ちましたが,和牛に追いつけ,追い越せということでやってまいりました。しかし,このごろはちゃんとした販売店さんなんかの見識では,ただ単に柔らかい肉というよりは,肉汁や本当の旨味成分という意味から,そんなに高級なものが美味いのか?という疑問の声もあって,普通の肉だって十分おいしいじゃないのと,色々と市場も改善されて…これで消費者の意識が変わって…*△○□×…・」(どよめく場内)
  6. 同『老種牛』の証言 : 「もー,えぇ加減にして欲しいというところじゃ。」(拍手)
  7. 傍聴の消費生活者 : 「??????……」

ご飯の写真架空の公聴会でいささか,げんなりしました。結局,うまい物は作り出されるのです。産業社会ですから,これを全て否定するわけにはまいりません。しかし,ある意味,決して,時代という魔物が作り出してゆくことに飲み込まれないように注意しなくてはなりません。このことをお忘れにならないように21世紀(やっぱり,出たなぁ〜)は心身的健康のためにも,自らの舌と経済観念でしっかりとおいしいものを食べて,つぎの世代にその知恵を伝えて頂きたいものです。

財布の中身と相談するときには,真心調理の「愛品質」も視野にいれて
つぎの箴言を思い出してくだされば幸せです。

「空腹こそ最大の調味料である」(ブリア・サヴァラン)
(C) Kohtan 的場