コラム 焼肉・プルコギと薬食同源・医食同源

美味探求

ホーム > 美味探求 > コラム 焼肉以上の隠し味

焼肉以上の隠し味

Kohtan・的場

焼き肉のダイゴミはなんと言っても「バクバク・ガンガン・モリモリ」であります。生理的に興奮したように喰らうのが本来の姿なんだと感じられます。健啖に動物的にむさぼる…そこにはおそらく私たちの想像するフランス料理のアトモスフィア(いわゆるムードですな)や、和食における繊細の介在する余地はないと思えるほどです。

そりゃあ眼の前にコンロと食材があるのですから食すること以外にあまりする事がありません。
ま、近頃ではおすし屋さんのように冷蔵ケースの中を指差して
「その牛とろを軽くあぶってちょうだい‥」
なんていう焼肉屋さんもできているくらいですから一概には言えません。しかしそういうのは「バーベキュー以上焼肉未満」だと私は断固として思うのであります。しつこいようですが、やっぱり焼肉のダイゴミはなんと言っても「バクバク・ガンガン・モリモリ」なのです。



そして今回はそんな焼肉にもふかーい隠し味のあるお話です。

そもそも本場、朝鮮半島における焼肉は「プル(火)コギ(肉)と言われているのはご存じの通りです。どうです「火と肉」ですぞ。こんなに単純でかつ食欲をそそる言葉がこの世にありますか。ベジタリアンには恐縮ですがこれはやっぱりすごい。

父親の食べているミディアムレアのステーキを見て小さな子が
「お父さんの牛さん、怪我してるの?」
というほほえましい話をこのあいだ新聞で読みましたが、それくらい肉食は直接的であります。

しかし、プルコギから発生した焼肉にはそのプルコギから伝えられた「薬食同源」の調味がてんこ盛りです。

もともと、朝鮮料理は中国大陸と南方文化の影響が色濃くあるといわれ、それらは「薬飯(やっぱん)」、「薬果(やっくゎ)」、「薬水(やっす)」という風に身の回りの栄養素を命の薬としました。中でも日本でいうところの「薬味」=「薬念(やんにょむ)」がその医食同源の調味の親分だといっても言い過ぎではないでしょう。分かりやすく、ヤンニョムは焼肉料理を引き立てるバイプレーヤーの第一人者なのです。

その中でも良く知られているのはニンニクと唐辛子ですね。ニンニクは殺菌・強肝・そして消化を助けたり血流を良くしたりとかまるで漢方万効能。そして栽培地で大きさや色、辛さの違う様々な唐辛子は近頃特に有名になった「カプサイシン」が含まれています。このカプサイシンはダイエットに効くとかで食べ過ぎてしばらく味が分からなくなってしまった女友達がいるほどです(アホですなぁ)。
他に代表的なものは中華料理の甜麺醤(テンメンジャン)の様に甘くはない、豆粒入りの八丁味噌のようなテンジャン(味噌)、十年・二十年モノも珍しくないといわれる真っ黒なカンジャン(醤油)、そしてコチュジャン(唐辛子味噌)ですか。
もちろん粗塩や胡麻油、荏胡麻油(えごまあぶら)という植物的には紫蘇系の植物油、生姜などなど、書きあげればきりがなく、さながら南大門市場を渉猟している気分にもなります。

そうして日本に渡ってきた「焼肉」は私たちの風土と舌に合うようにこなれてくれました。前出の「鮨屋風焼肉屋」もそうですが、一般的には和食あるいはご飯の「おかず」となって発展していったのです。これは私たちの「巻き寿司=鮨」がカリフォルニア巻になったのと何ら変わりはなく食べるものの情報から楽しさや健やかさを得ようとする人間本来の身体と脳のはたらき。
これ以上ムツカシイところまでいくと肉(コギ)が
「オリーブオイルとエシャロットでちょっとマリネしたお高い肉」になって
火(プル)が高級備長炭で
「遠赤外線がいいのよ、タレはライムに岩塩を入れて…」
と、やや旨そうだけれどもまたもや面倒くさい話になりかねませんので止めます。止めるのはそんな小理屈以上に「焼肉」は上っ面な食べ物ではなく本当にインティメイトな原初の食卓の風景が人の心に灯をともす瞬間賞味モンだからです。

目の前に火があって肉がある,焼肉以下でも以上でもない隠し味は、
それこそ何を隠そう親密な二人
ここで百歩譲って
「パクパク・ガンガン・モリモリ」でなくても、芯から求め合うような
「うんうん・あぁあぁ・そうそう」というような互いに知れあったあるいは大人の恋心がホンに微妙な隠し味なのかもしれません。

「あぁ…旨い焼肉が喰いたいなあ」と 今回は嘆息する Kohtan 的場でした。

(C) Kohtan 的場